このことは『空の上のおもちゃ』を作り終えた時にも書いたけど、
もう一度、書く。
そうしないと『Indigo』のあとがきは書けないから。
小学生の頃の話。
深夜に眼を覚ました、ちっこかった僕は、
カーテンの隙間から真っ白な光が差し込んでるのに気づいた。
僕の実家は、本当の本当に山奥の田舎で、
百メートル半径には僕の住む家しかなくて、
当然、街灯なんかないし、街の明かりだってない。
この光はなんだろう、と思って、
カーテンを開けた僕の眼に飛び込んだのは、
真っ白なまんまるお月さま。
僕はその時まで、月の光がこんなに強いなんて知らなかったんだ。
気づいたら僕は部屋を出て、玄関を越えて、外に出ていた。
どんな夜だって怖くてしょうがない、
普通に臆病な小学生だったのに、その日だけは怖くなかった。
僕は月に「おいで、おいで」をされた経験があるんだ。
月にさそわれるがままに、ちっこい僕はふらふら歩いていく。
『冬は幻の鏡』も『空の上のおもちゃ』も今回の『Indigo』だって、
あの時のふわふわしたような変な気持ちが元になっていると思う。
『冬は幻の鏡』も『空の上のおもちゃ』も月にこだわったけど、
『Indigo』は月じゃなくて、
あの日、小学生だった僕を取り囲んでいた、
藍色の空気について書きたかったのだ。
この世でしかないのに、この世じゃないみたいな、
そういう不思議な藍色の風景を書きたかっただけなのだ。
それが始まりなわけで……。
……ちっこい僕に、こんな感じにできましたがどうでしょうか?
と見てもらいたいけど、
ちっこい僕は、雪雄先輩みたいに、月を見るのに夢中だから、
きっと、いくら話しかけても気づいてもらえない。
……あの時、外に出て行ったちっこい僕は、今も、
真っ白な月が浮かぶ藍色の空気の中をふらふら歩いている。
生まれたての子馬みたいに、死にかけの老犬みたいに、
左右に揺れながら、空を見上げて、ふわふわ歩いてる。
そんなちっこい僕の後ろを歩いていれば、
また何かが生まれそうな気もするけど、今は何もわからない。
とりあえず、ちっこい僕が月を見るのをやめて、
後ろの僕に気づいてしまうまでは、
そっと背中を追ってみようかな、とそんなことを思っている。
ファック、ファック、シット、シット。
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