『幽霊的瞬間 第4話』

ウィッス。幽霊的瞬間第4話。
過去のはこっち。
『幽霊的瞬間 第3話』
『幽霊的瞬間 第2話』
『幽霊的瞬間 第1話』

もし欲しい乙女系サークルがいたら、くれてやるわい! 
と言ったが、先に進むつれてなんかもう、
わけわかんないことになっていくのでどうかと思った。
あと、女が主人公で、脇役ほぼ男なのに、
最初に登場する男がモヒカンなのも相当にどうかと思った。
何もかもがダメな気がしてきた。
どこにも行き場のない作ファッキン品になりそうだが、
女の子の一人称が書きたい欲求にしたがって、
周囲のもろもろと関係なく、黙々と続く『幽霊的瞬間 第4話』。


立ち止まったモヒカン先輩の前には、
ビニールシートで隠された人の背くらいの高さの何かがある。
……かなり嫌な予感しかしないなぁ。
少なくとも私には想像もできないものが隠れているのだけは間違いない。
バッ、とモヒカン先輩はビニールシートを握ると、
「こいつが俺達の最終兵器どパンクくんだっ!」
一気に引いた。
そこにあったのは木製の、架空動物の骨格みたいなモノだった。
しっかりとした足があって、長い首のようなものがあって。
ラクダかキリンといえなくもないような気がする。
「……これは動物を模したオブジェですか?」
「ファック。どパンクくんだぜっ!」
名前はいいから。
勝山さんはどパンクくんをぽんぽん叩いて、
「これはローマ帝国で使われていた投石機を
四分の一の大きさで再現したものだよ。
一応、説明すると投石機とは、
石とかを遠くまで投げるための機械のこと。
昔の戦争で使われていたんだ。
大きな石を敵に向かって投げるんだ」
敵? 
大きな石? 
投げる?
「もっ、もしかして、ハンプティ・ダンプティ先輩に、
石をぶつけるつもりですか? 
そんなことしちゃダメです。人殺しになっちゃいますってば!」
「ファック!」
今のファックは、違う、のファックだ。
一年ぶりの再会なのに、
モヒカン先輩の使う七色のファックを聞き分けられる私って凄いなぁ。
モヒカン先輩はどパンクくんの横にあった、
四角い機械をゴンッと蹴って、
「こいつはファッキン孵化器だぜ」
「孵化器って、卵をヒヨコにする機械ですか?」
「ファック!」
今のファックはイエスのファックか。
「で……その……その……えっと、何が行われるんですか?
孵化器をハンプティ・ダンプティ先輩にぶつけるんですか?」
「違ぇよ。オメーのファッキン入学祝いに、
孵化器を投石機で打ち上げたるぜ」
「……なぜ?」
いっ、意味がわからない。過程も結論も見えない。
モヒカン先輩の言うことは闇すぎる。
「オメーもさっきの映像を見てドたまに来たべや?」
「いえ、別にそこまでは……」
「ファック!!」
「はっ、はい。頭に来ました」
「ハンプティ・ダンプティ野郎が卵を落とすなら、
俺達は孵化器を宇宙の果てまで打ち上げる! 
これが俺達の芸術だッ!」
「そっ、それが私達の芸術でしたか?」
 らなかった! 斬新な意見だ!
「卵を落とした奴は腐るほどいるだろうが、
孵化器を打ち上げ奴は多分いねぇぜ! 世界初!
ファッキン史上初! 世界がひっくり返るぜ!」
……ひっくり……返るだろうか?
「ファック!」
 モヒカン先輩の掛け声と同時に、
勝山さんが投石機についたハンドルみたいなモノをぐりぐり動かす。
勝山さんも私と同じく、
モヒカン先輩の七色の意味を持つファックを、
正確に聞き分けられるらしい。
モヒカン先輩が投石機の真ん中にある、
巨大なスプーンのような部分に、
モヒカン先輩が孵化器を慎重に置いたのを見た勝山さんは、
バックの中から動画撮影用のカメラを取り出した。
画面を見ながらレンズを空や地面に向けて振って、
「こっちの準備はいいよ。撮影の準備もオッケー」
「おっし、こっちもいいぜ、オラッ!」
 モヒカン先輩は私の背中をどんっと叩く。
「うぷっ。え? なんですか?」
「オメーの入学記念だ。オメーが打ち上げの合図をするんだぜ!」
「えっ? 私が……どうしてですか?」
「ったりまえじゃねぇか。オメーを祝うために、三ヶ月もかけて作ったどパンクくんだぜ」
 ……三ヶ月かけましたか。
はぁ。相変わらずモヒカン先輩は凄い行動力だなぁ。
自分が楽しいから、というのが制作の一番の理由だろうし。
二番目の理由はさっきの卵を落とす映像への怒りだろうし。
そうだとしても、私のために三ヶ月かけてくれた、
と言われるのは……なんというか、まぁ、その……。
悪い気はしない。
モヒカン先輩はしょうがないんだから。
私は、こほん、とセキをしてから、
「えっと、んじゃ、言いますね」
勝山さんはカメラを振って、
「こっちはいつでもいいよ」
「俺もファッキン準備できてるぜ、タコ助!」
それじゃ……。
私は思いっきり息を吸い込んで、大きく口を開く。
大学に入学して最初の大声だから、思い切って言ってやる。
「ファック!!」
モヒカン先輩みたいに叫んだ瞬間、
ドゴンッ、と鈍い音を響かせて、巨大なスプーンが跳ね上がり、
孵化器がびっくりするほど高く舞い上がった。
うっ、うわ~。まっ、まさかここまでのものとは……。
私は口をぽっかりと開けて、孵化器を見つめる。
空の高い場所で太陽と重なった孵化器が、
妙にゆっくりと落下を始める。
何と言うか、その……ハッキリ言って意味は全然わかんないし、
オリエンテーションをさぼって何してるんだ私、
っていう冷静な自分もいるし、ちょっと悔しい気もするんだけど……。
だけど。
何かが高い場所にある、というのはそれだけで感動してしまう。
モヒカン先輩風に言うなら、びびってしまう。
ドシャと落ちて、こなごなに砕けた孵化器に駆け寄って、
バカみたいにはしゃぐモヒカン先輩と勝山さんを見ながら、
私はまだ変な感動の余韻に微妙に浸っていた。

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