進めば進むほど乙女系から離れていく『幽霊的瞬間 5話』。
いったい誰が読んでるのかわからぬままそれでも続く!
『幽霊的瞬間 第4話』
『幽霊的瞬間 第3話』
『幽霊的瞬間 第2話』
『幽霊的瞬間 第1話』
あれ?
引き寄せられた、としか言いようがない。
自然に首が右側へ動き、斜め上を見上げる。
近くの校舎の屋根のはしっこに立って、
こっちを見下ろす男子生徒がいた。
なぜか妙に気になる。
手すりはないみたいだから、
あそこは屋上じゃなくて屋根だと思うんだけど……。
どういう意味があるのか、
砕けた孵化器をドカドカと蹴りまくってるモヒカン先輩に、
「あの校舎って屋上があるんですか?」
「あん? ……ありゃは映像の糞どもの校舎だな。勝山、どうなんだ?」
「6号館には屋上はないよ。あったら撮影に使ってるし。
うちらが撮影に使う屋上は8号館だからね」
「どうして、んなことファッキン聞くんだ?」
「あそこの屋根に人が……あれ? いない。でもいたんですよ。
こっちをじっと見てたから気になって……」
モヒカン先輩は、べっ、と自分の足元に唾を吐く。
「あー、幽霊だろう」
……幽霊ですと?
勝山さんが微笑んで、
「この学校は幽霊の噂が多いことで有名なんだよ」
……ここは小学校か。
芸大だからみんな想像力がありすぎて、そうなっちゃうのかな?
ちなみに私は幽霊を肯定も否定もしないけど、
幻覚がどうしたこうしたとか、脳のイタズラによる云々、
って説明にリアリティを感じるタイプ。
おばぁちゃんの語る幽霊話は信じたいけど、
霊感の強い芸能人の話とかは冷めた目で見ちゃう。
「幽霊は怖いから嫌いだぜ、ファック!」
ファック混じりにそんな可愛いこと言われても。
「でも幽霊って感じじゃなかったですよ」
勝山さんはなぜか少し緊張した様子で、
「6号館の屋根に行って確かめみようか?」
「いえいえ、いいです。そこまで気になるってわけじゃないので」
「ファック!」
今のは、いいことを思いついたぞ、っていうファックだ。
もちろん、モヒカン先輩にとってのいいことであって、
それが私にとってもいいことな可能性は低い。
「何を思いついたんですか?」
「どパンクくんでオメーを6号館の屋根まで打ち上げる、
っていうのはどうだ?」
えっ?
「ええええええっ?! そっ、そんなことできるんですか?」
勝山さんが苦笑して、
「多分、無理だろうね。
壁にぶつかって大怪我する可能性の方が高いと思うよ」
「最ファッキン高じゃねぇか! 無駄死に最高!
かなわねぇ、とわかっていても権力の壁にぶつかるのがパンクだぜ!」
実際に壁にぶつかって死ぬのはパンクじゃ……パンクなのかな?
「とにかくいいです。入学早々死にたくありません」
「つまんねぇ野郎だぜ」
そう言うならモヒカン先輩が飛べばいいじゃん。
っていうか、私は女のなので野郎じゃない。
「まぁ、その話はもういいじゃない。久保寺さんも気にしないって言っているんだからさ」
「ケッ。んじゃ、歓迎会といくか!」
「えっ? そんなの別にいいですよ」
「黙れ、ボケ! 新歓コンパの開始じゃ! 勝山準備してくれ!」
「了解」
勝山先輩はどパンクくんを覆っていたビニールシートを、
ばさっとその場に広げた。
えっ?
「あの新歓コンパってここでやるんですか?」
「心配しないでいいよ。この学校、校内での喫煙飲酒が認められてる、
というか完全放置状態だから。
未成年でも怒られるってことはまずないよ」
「はぁ……そうなんですか」
そういうことじゃなくて……居酒屋とかじゃなくて、ここでするんだ。
グラウンドの片隅でいきなり飲み会が始まってしまうんだ。
ちょっと恥ずかしいんですけど。
本当にいいんですか? グラウンドで酒盛りって。
……こっ、これが大学か~。
「ファーック」
モヒカン先輩は、どかっとビニールシートの真ん中に、
壊れた孵卵器を投げ落として、
「シット! シット! シット! オラッ! 頭が高けぇよ、オラッ!」
靴底でがんがん蹴りまくって無理矢理、
表面を水平にすると、自信満々に私を見つめて、
「テーブル」と言った。
「凄く野蛮なテーブルですね」
「そして酒! 大五郎! 下町のナポレオンッ!
鬼殺し! そして、宝焼酎!」
「うわー。すごーいやー」私は平坦な声で言う。
全部、焼酎なんですね! しかも安いのばかり!
いや、安いのはいいですよ。
モヒカン先輩がお金を持ってるなんて思わないから。
それで当然だし、そのことを責めようとはまったく思いません。
だけど、せめて! 私は未成年の女の子なんだから、
せめて、杏とか梅とかの甘いお酒を用意してくれてもよくありません?
というか焼酎を割るジュースとか。ウーロン茶でもいいから!
モヒカン先輩はプラスチックの容器をデコボコなテーブルに置いていく。
「も、モヒカン先輩……それは?」
「プリン」
「プリン?!」
プリンを肴に焼酎?!
「プリンはないんじゃありませんか?」
「あん? テメーが女だから甘味を用意してやったんじゃねぇか。
好きだったろ、ファッキンプリン」
「そうじゃなくて!」
「……牛乳プリンがよかったか?」
「そうじゃなくて!」
「安心して、久保寺さん」
ああ、勝山さん! 私の言いたいことわかってくれますよね?
勝山さんはスーパーの袋をごそごそして、
「マヨネーズたっぷりのサラダ巻き、
燻製のホヤ、しょっぱすぎるウニの瓶詰め」
……まぁ、その……いいんですけど。いいんですけど、
私はもっと普通が好きです。ポテトチップスレベルで大丈夫です。
「そして、今日の目玉! 馬刺しだよ!」
「馬刺し!?」
「あっ、大丈夫だよ。
ここに来る直前に肉屋さんから直接買ってきたから。新鮮そのもの」
「あっ、あの……ですね」
「ん~、あー、北海道じゃ馬刺し食わないからな。
びびるな。うめーし、焼酎にファッキン合うんだぜ」
「いや、あの……」
……馬刺し?!
野外で、馬刺し?!!
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