『Indigo』を買ったら幸せになった!
そんなご意見が続々よせられていますッ! マジで!
幸せになりたかったら買うしかねーッ!
で、『幽霊的瞬間 第1話』の続き。
渡辺さんに「下さい!」ってお願いしたら
「やだ……あそこビショビショ乙女ゲーサークルだ……」
って思われるのかな
……というもっとも過ぎて、
眼から火花が飛び散りそうなご意見がありました。
なんというミステイク!
その場でちょっと受けることだけ考えて、
他人のことはあまり考えない、この性格がまた悪い方向へと!
他人を恐怖のどん底へと!
きっと、そんなことはないと思いますよっ!(泳いだ眼で)。
まぁ、別に貰い手がいなかったら、それはそれでいいや。
っていうか最初から期待なんかしてないもん!
……一話は、ヒロインしか登場してなくて、
どんな話なのか空気もつかめないと思うので、
重要キャラとの会話シーンまで。
……あんまりっちゃあんまりな、
とても女性受けしなさそうなキャラですが……。
第3話からは、一週間に一回か、それ以下のペースで、
出していこうかとワシは思っとる!
『幽霊的瞬間 第2話』
「ファック!」
えっ? あっ、この声って!
笑顔の人々を不必要に威嚇しながら、
銀色でトゲトゲの鋲を打ち込んだ革ジャンにモヒカンの男が、
私にどんどん近づいてくる。
しかめっ面で私を真っ直ぐに見つめて、
「ファック!」
「もっ、モヒカン先輩!」
約一年ぶりに聞く声。
モヒカン先輩は私の肩を抱くように力強く引っ張って、
「ついて来い!」
「はっ、はい。ついて行きます」
モヒカン先輩の背中に、RPGの仲間みたいにぴったりくっつく。
今までが嘘のようにスムーズに進む。
トゲトゲの服に殺到したら怪我は間違いなしだもんね。
人の群れが真っ二つ!
凄いや、モヒカン先輩。モーゼみたい!
二十メートルくらい進むと、勧誘の人はいなくなった。
どうやらサークル勧誘は校門付近だけで行われる決まりらしい。
モヒカン先輩は立ち止まって私に振り返った。
「くそノロマが」
先輩が私に悪態をつくのは挨拶みたいなものだ。
だから少しも嫌な気分になんかならない。
「助けてくれて、ありがとうございます」
「へっ、相変わらずクソデコビッチな童顔だから、
糞なめられて、あいつらに近づかれるんだぜ。
唇か鼻にピアスつけろって前から言ってんだろうが、ファック」
……つけるか。
「それが嫌ならのデケー額に、虎の刺青でも入れろや」
そんな大胆な大学デビューをするつもりはない。
っていうか、再会しそう早々、デコのことばかり言うな。
「だいたいなんだそのファッションは、あん?」
「ファッションって……。
普通にピンクのワンピースに、白のカーディガンですけど……」
春の一般的な格好だと思う。
もっと北海道じゃこんな格好は、
五月も中頃にならないとできなかったけど。
四月にこんな軽い格好ができるなんて、
それだけでちょっとウキウキだ。
本土にいる実感で胸が一杯になる。
モヒカン先輩は呆れたように、パシッ、と自分の額を叩いて、
「普通? バカヤロー!
ファッションっていうのは威圧のためにあんだろうが?
だっちゅーに、そんなふわふわな格好しやがって、あんっ?
オメー、バカだろ?」
私とモヒカン先輩との間には、
ファッションについての深い谷があるようだ。
「……え~っと、先輩は相変わらずモヒカンですね」
「おう、俺はモヒカンだからよう」
少し照れたようにうなずいたモヒカン先輩は私の手を見て、
「ん? なんだそりゃ?」
「サークル勧誘のチラシですけど……」
「くだらん紙をたくさんもらいやがって、バカが」
言うなり、私が両手に抱えていた紙の束を一枚残らず奪った。
「あっ、それ捨てるんですか?
一応、どんなサークルがあるか確認しようかな、
なんて思うんですけど」
モヒカン先輩はトゲトゲの服のポケットやジーンズのベルトに、
ごそごそ、と紙を突っ込んで、
「捨てねぇよ。俺のケツを拭く紙にするだけだ」
いや、わざわざそんなことしなくても。
……っていうか、普通にトイレットペーパーを使えよ。
「オメーはサークルの確認する必要なんかねぇ」
「……それはどうしてでしょうか?」
とても嫌な予感がします。
「オレのサークルに入るからに決まってんじゃん、バカが」
決まってる……のか。
「えっと、その……サークルくらい自分で決めたいんですが?」
「ファック!」
「はい、わかりました」
……はぁ。どうせモヒカン先輩から逃れることなどできないのだ。
清くあきらめよう。
「で、モヒカン先輩ってどんなサークルに入ってるんですか?」
「決まってんじゃん」
そう言って口を閉じる。
……何が決まってんだよ。それで説明したつもりか?
「あの~、せめてサークル名だけでも教えてくれません?」
「どパンク!」
「えっ?」
「どパンクアナーキー研究会!」
……うううっ、なっ、なんて頭悪そうな研究会!
私はそんなサークルの部員にならなきゃならんのか?!
ビックリだ!
「アナーキーということは……その……。
無政府主義についての研究会?」
「ファック!」
「わかってますよ。パンクなんですね。
シド・ビシャスで、ストラングラーズでクラッシュなんですね」
「ファ~ック」
満足そうにうなずいた。
私とモヒカン先輩は南陽高校放送部の先輩後輩。
とにかく無茶をするのが、その放送部の伝統で、
私もかなり無茶なことに付き合わされた。
一番の思いではやはり……。
江戸川乱歩の『パノラマ島奇談』に影響されたモヒカン先輩が
「俺達のパノラマ島を作る!」と言い出したことだろう。
『パノラマ島奇談』とは妄想に取り付かれた男が、
脳内でテーマパークみたいのを作ったりして素敵なことになる、
という話らしい。
私は読んでないからよく知らない。
放送部なんだから『パノラマ島奇談』のラジオドラマを作ろう、
となるはずなのに「パノラマ島を作る!」となってしまうのが、
モヒカン先輩の怖ろしい所だ。
で、夏の合宿で無人島でキャンプをしつつ、
そこにパノラマ島を作る、
という明らかに正気を失った企画が放送部で実行されてしまった。
島に到達する前から、
モヒカン先輩が漁船にひき逃げされる、という、
この世のものとは思えない事件発生。
その後も当然のように、
モヒカンが岩の隙間に挟まってモヒカン先輩が動けなくなったり、
初めてのお酒でわかりやすく正気を失った和田くんが
「生きた馬頭観音を作るために野生馬を捕らえてきます」と言って、
夜の闇の中に全力疾走したり、
植物に詳しいゆきちゃんがキャンプ地のそばの花の群生を見て
「これ、阿片ケシですよね」と虚ろな目で言ったり。
冗談から始まった(モヒカン先輩は本気だったかもしれないけど)
江戸川乱歩ごっこだったのに、
江戸川乱歩の猟奇世界に、みんな侵食されてる、と気づいた私は、
恥ずかしかったけど率先して水着に着替えて(しかもビキニだ)
みんなに海水浴を強制した。
北海道の東側の海は、夏でも超冷たいけど、
そこは高校生パワーでぶっちぎった。
……今考えればバカバカしいけど、
そうやって健全な方向にもっていかないと、
本当にヤバいことになってしまう、と切実に思ったのだ。
無事に合宿は終わったけど、
あのまま江戸川乱歩世界に突入していっても、
それはそれでおもしろかったのかも?
私は余計なことをしたのかな?
って時々、思うことがある。
だとしても阿片ケシはまずい。
やっぱり中断させてよかったんだと思う。
……それにしても、またモヒカン先輩と一緒になるなんて。
別にモヒカン先輩を追っかけて、この大学に来たわけじゃない。
文芸学科のある芸大を幾つか受けて、
ここだけ受かったという、それだけの話。
にしても、難易度がここより上の大学に落ちるのは当然として、
ここより低い大学にも落ちた、
というのはいったいどういうことなのだろう。
……ここに入学して再びモヒカン先輩の後輩になるのが、
私の運命なのだろうか?
「おう、運動場に行くぞ。見せてぇもんがあるんだ」
「えっ? なんですか?」
「オメーの入部記念行事だ」
私が入部を断るなんて、少しも思ってなかったみたい。
そんなことをしていただいてありがとうございます、
とはさすがに言いづらい。それに……。
「私はこれからオリエンテーションがあるんですが」
「ファック!」
いやいや、そう言われても……。
「最初の最初ですから、受けておいた方がいいですよね?
オリエンテーションが終わるまで、
待ってもらうことはできないんですか?」
「できねぇ」
あ~、そうですか。でも、さすがに……。
モヒカン先輩は自慢のモヒカンを両手でこすりながら、
「最初のオリエンテーションなんか行く必要ないぜ。
あんなもん、出欠なんか取らねぇし、
事ファッキン務の連中のつまんねー話を聞かされるだけだぜ。
わかんねーことがあるなら、俺が教えたる」
「はぁ……。それなら、もうそれでいいですけど」
まぁ、確かに事務口調の話を聞くより、
先輩から話を聞いた方がわかりやすそうではあるし……。